日本の産業内貿易の構造

(報告要旨)

石田 修

九州大学経済学研究院

1. はじめに

本稿では、1988年から1999年の12年間のデータが利用できる、HS分類の6桁レベル,約 5000品目ごとの輸出入金額と輸出入数量を分析することから、貿易形態を分類し、日本とアメリカ、EU4(イギリス、フランス、ドイツ、イタリア)、NIES4(韓国、台湾、香港、シンガポール)、ASEAN4(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン)、そして、中国の主要14ヵ国との貿易構造を検討する。

報告では、第1に、貿易形態を分析する際の予備作業として、産業内貿易と産業間貿易の形態分類を行う。第2に、本報告の分析方法のもととなった、Fontagné, Freudenberg, Péridy(1997)分析手法を説明し、産業内貿易と水平・垂直的貿易の測定方法と分析の枠組みを明確にする。第3に、図表を用いて、分析の結果から日本の産業内貿易の構造を明らかにする。そして、最後に、分析から導き出された理論的課題をまとめる。

 

2. 産業間貿易と産業内貿易

経済活動を分析する場合、分析の基本単位として,国民経済という経済単位と企業という経済単位が考えられる。そして、前者はマクロの単位、後者はミクロの単位であると定義される。そして、この中間に位置するのが産業という経済単位である。形態的にみれば一定の特性の商品を生産する企業集団という経済単位であると考えることができる。

理論的には、ミクロの価格理論の応用として、共通の買手に対して代替関係のある商品を供給する企業の集まりと定義される。産業内貿易においても同様に産業の定義は重要であり、産業の組成に関しての分類基準としては、商品間の代替性の基準を用いて、@需要の側面から(消費の代替性という基準で)、たとえ異なる素材からできていようとも同一の使用目的で使われ、容易に代替される生産物の集合体としての産業を分類する定義、A供給の側面から(生産の代替性という基準で)、たとえ最終使用目的が異なっていても、同様の投入要素を使用して生産される商品の集合体として産業を定義することが可能である。

本稿では、産業内貿易の測定方法と関連して、供給の側面から、B技術水準から分類する方法を採用する。つまり、特定の生産技術を用いて生産される商品の集団を産業と定義する方法である。そして、実際の計測問題の視点からすれば、製造業における技術が類似しているものを産業と定義するアプローチが、貿易統計の品目分類に対応していると考えられる。 

 

3.分析方法

本稿では、Fontagné, Freudenberg, Péridy(1997)分析方法(以下ではCEPII指標と呼ぶこととする)を採用する。この手法では、まず、日本と k 国の i 品目の貿易を t 期でみた

 

 

を、輸出入の重複度を測定する基準とする。また、品目ごとの輸出金額と輸入金額をそれぞれ輸出数量と輸入数量(物量単位の多くはキログラムである)で割った単位あたり価格を用いて、

 

という基準を用いる。

したがって、以上の二つの基準を組み合わせると貿易の形態は表1のようになる。

 

 

 

 

表1.CEPIIによる分類

 

0 ≦ α ≦ 0.15

0.15 < α

TOL > 10%

双方向貿易・水平的貿易

双方向貿易・垂直的貿易

TOL ≦ 10%

一方向貿易

 

そして品目ごとに計算されデータを、一方向貿易、水平的貿易、垂直的貿易のいずれかである特定の産業集団に集計する方法が以下の式である。

ただし、Wとは一方向貿易、水平的貿易、垂直的貿易のいずれかである(αとTOL(t)の場合分けによる貿易構造は表2のようになる)。

さらに、報告では、産業を、HS分類に基づき、18産業に分類し、とりわけ、主要貿易産業でありかつ垂直的貿易の拡大が著しい化学、機械、電機、精密機械そして自動車を詳しく取り上げている。くわえて、石田(2001)ですでに分析しているように、ハイテク貿易と中間投入財の貿易が拡大していることを踏まえ、産業分類とは別に、部品貿易とハイテク貿易に注目する。 

 

. 日本の貿易構造:分析結果の概観

@貿易全体をみると、双方向貿易のシェアが拡大し、一方向貿易のシェアが減少している。また、双方向貿易の中でも、特徴的なのが垂直的貿易のシェアの増加である(表3)。

A農産物等、食品、鉱物生産物、木材・紙、繊維、家具雑貨等は90%から80%近くが一方貿易であり、HS分類の84からの機械や自動車が含まれている工業製品では、垂直的貿易の比重が大きく、また、水平的貿易もわずかであるが増加傾向にあるという特徴がみえる(表3)。

B部品貿易とハイテク貿易をみると、垂直的貿易の比率が高く、その割合も年々拡大させている。さらに、ハイテク商品では、水平的貿易の割合が高くなっていることが確認できる(表4)。

C垂直的貿易の動向をみれば、どの地域も割合が収斂化している傾向にある。しかし、部品貿易とハイテク貿易を見る限り、ASEAN4と中国の傾向は他の地域と異なり、伸び率およびその割合が非常に高くなっている(表は当日配布)。

D産業のなかで、機械産業、電機産業は、どの地域も垂直的貿易が拡大している。とりわけ、機械産業の一部である電算機では、中国、アメリカとの貿易で垂直的貿易が支配的な形態となっている(表は当日配布)。

E自動車は、一方向貿易が支配的であるが、ただ、EUとの間では垂直的貿易、そして水平的貿易も、若干であるが、みられる(表は当日配布)。

 

5.むすび:理論的課題

技術水準アプローチとして、置塩(1957)の方法基づく、価値タームと技術的生産係数による部門の定義が可能である。この方法に従えば、日本の産業内貿易の分析から明らかとなった垂直的貿易の理論的説明には、石田(2000b)で提示した余剰理論に基づく貿易理論の適応可能であろう。

 

Fontagne,L. and Freudenberg,M (1997),"Intra-industry trade: methodological issues reconsidered", CEPII97-1.

置塩信雄(1957) 『再生産の理論』、創文社。

石田修(2000b)「比較生産費の再検討」伊東弘文・細江守紀編 『現代経済の課題と分析』,九州大学出版会

石田修(2001)「アジアの分業構造の変化と中間財・資本財貿易」矢田・川浪・辻・石田編『グローバル下の地域構造』、九州大学出版会。

 

 

表2.日本と14カ国との貿易構造(1999年)

 

90<t

0<t≦90

0<t≦80

60<t≦70

50<t≦60

40<t≦50

30<t≦40

20<t≦30

10<t≦20

0<t≦10

t=0

合計

1≦UV≦1.15

1.5

0.1

0.4

0.2

0.5

0.3

1.2

0.4

1.4

10.1

0.0

16.1

1.15<UV≦1.3

0.1

0.1

0.4

0.2

0.2

0.2

0.6

0.7

0.6

5.6

0.0

8.7

1.3<UV≦1.5

0.2

0.1

0.3

0.4

0.3

0.5

0.4

0.4

0.9

3.8

0.0

7.3

1.5<UV≦1.75

0.5

0.2

0.4

0.4

0.2

0.3

0.3

0.6

0.5

5.0

0.0

8.3

1.75<UV≦2.0

0.1

0.1

0.1

1.3

0.1

0.4

0.3

0.2

0.6

2.8

0.0

5.8

2<UV≦3

0.2

2.0

0.3

0.3

0.5

1.5

0.4

1.2

1.8

7.0

0.0

15.1

3<UV≦4

0.1

0.1

0.1

0.4

0.1

0.2

0.4

0.7

1.3

3.9

0.0

7.2

4<UV≦5

0.0

0.0

0.1

0.1

0.1

0.1

0.1

0.2

0.7

2.4

0.0

3.8

5<UV≦10

0.1

0.1

0.2

1.3

0.1

0.4

0.4

0.5

1.6

4.1

0.0

8.7

10<UV≦15

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.1

0.0

0.1

0.3

1.1

0.0

1.8

UV>15

0.0

0.4

0.1

0.2

0.1

0.2

0.2

0.2

0.6

2.2

0.0

4.1

NA

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.1

0.5

12.4

13.0

列の合計

2.6

3.3

2.3

4.7

2.1

4.2

4.3

5.1

10.5

48.5

12.4

100.0

 

表3.日本の貿易構造の推移

 

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

一方向貿易

75.6

72.9

71.8

71.6

70.9

69.8

67.9

61.9

59.2

62.4

60.7

60.8

 

HS01〜83

34.6

34.5

33.2

32.7

31.9

30.8

29.9

29.8

29.3

28.3

27.2

26.4

HS84〜96

41.0

38.4

38.6

38.9

39.0

38.9

37.9

32.1

29.9

34.1

33.5

34.4

双方向貿易

24.4

27.1

28.2

28.4

29.1

30.2

32.1

38.1

40.8

37.6

39.3

39.2

 

HS01〜83

7.1

7.3

7.5

7.7

7.7

7.6

7.7

8.0

8.3

8.3

8.3

8.5

HS84〜96

17.3

19.8

20.7

20.6

21.3

22.6

24.5

30.1

32.5

29.3

30.9

30.7

 

水平的貿易

3.0

2.5

3.6

2.6

3.4

3.3

3.4

7.7

9.6

5.8

4.8

5.9

 

 

HS01〜83

1.4

1.5

1.5

1.2

1.6

1.0

1.0

1.3

1.2

1.2

1.3

1.2

 

 

HS84〜96

1.6

1.0

2.1

1.4

1.8

2.3

2.4

6.3

8.3

4.6

3.5

4.7

 

垂直的貿易

21.4

24.6

24.7

25.7

25.7

26.9

28.7

30.5

31.2

31.8

34.4

33.4

 

 

HS01〜83

5.7

5.8

6.0

6.5

6.1

6.6

6.7

6.7

7.0

7.2

7.0

7.3

 

 

HS84〜96

15.7

18.8

18.6

19.2

19.6

20.3

22.1

23.7

24.2

24.6

27.4

26.0

合計

100

100

100

100

100

100

100

100

100

100

100

100

 

表 4 主要14ヶ国全体の部品貿易とハイテク貿易における産業内貿易

 

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

部品

割合

13.3

13.5

13.9

14.6

15.0

15.7

16.7

16.9

17.3

17.8

18.4

18.3

 

一方向

55.0

50.0

48.6

49.8

50.3

52.0

49.8

47.4

41.6

38.2

34.7

34.7

 

双方向

45.0

50.0

51.4

50.2

49.7

48.0

50.2

52.6

58.4

61.8

65.3

65.3

 

水平的

2.7

1.7

3.6

4.2

4.1

4.6

4.2

5.2

5.8

5.5

4.9

6.0

 

 

垂直的

42.3

48.3

47.8

46.0

45.6

43.4

46.0

47.4

52.5

56.3

60.4

59.3

ハイテク

割合

14.2

14.8

15.1

15.1

16.0

17.0

17.9

19.7

19.5

20.0

20.4

21.0

 

一方向

59.4

53.8

52.9

55.5

54.1

50.8

45.9

40.5

35.6

38.9

38.0

39.1

 

双方向

40.6

46.2

47.1

44.5

45.9

49.2

54.1

59.5

64.4

61.1

62.0

60.9

 

水平的

4.0

2.3

3.2

2.6

3.5

4.1

4.2

9.7

17.0

13.2

8.1

12.4

 

 

垂直的

36.6

43.9

43.9

41.9

42.4

45.1

49.9

49.8

47.4

47.9

53.8

48.5