中国の第95カ年計画期における対外貿易の変化と外資系企業の貢献

                       東北学院大学大学院経済学研究科博士後期課程

長谷川 貴弘

 

1.はじめに

国務院朱鎔基首相の「国民経済と社会発展の第105カ年計画綱要についての報告」における第95ヵ年計画期の対外開放の成果についての評価

2000年の輸出入総額は、4,735億ドルに達し、その中で輸出は2,492億ドルで、それぞれ1995年と比較して、69%、67%増大した。輸出商品構造も改善し、機械電子製品とハイテク製品の比重も高まった。対外開放領域も次第に拡大し、外国からの投資環境も継続的に改善している。従って外資導入の規模も増大し、その質も向上した。5年間の累積実行ベースの外資導入額は、2,894億ドルで、第85ヵ年計画期よりも79.6%増大した。国の外貨準備高も2000年に1,656億ドルに達し、1995年よりも920億ドル増加した。」

 

 以上の朱鎔基首相の報告からは、第95ヵ年計画期における対外開放の成果として、貿易と外資導入を取り上げ、その実績を強調していることを伺うことができる。本報告では、第95ヵ年計画期における対外貿易の変化とそれに対する外資系企業の貢献度について考察したい。

 

2.貿易額、貿易依存度、貿易収支の動向と外資系企業の役割

    中国の貿易総額

19952,809億ドル→20004,743億ドル (年平均成長率は約11%)

前の5ヵ年計画期の平均成長率(約19%)には及ばず。

 

    中国全体の貿易依存度(GDPに対する貿易総額の比率)

95ヵ年計画期と第85ヵ年計画期を比べても、4割前後で大きく変わらない。

 

しかしながら、この第95ヵ年計画期の貿易額の動向について見逃せないのが、外資系企業貿易総額の中国全体の貿易総額に対する貢献度である。早くから、貿易、特に輸出額に対する外資系企業の貢献度について言及していたのはLardyである。

Lardy1990年代前半における指摘:「中国の外資系企業は、中国の輸出額の成長において、東アジアの他の国々に例を見ないほど重要な役割を果たしている」

    外資系企業貿易総額の中国全体の貿易総額に対する貢献度

199226.42%→2000年にはその比率は49.91%へ。約半分もの貢献度。

 

    外資系企業の貿易収支(外資系企業による輸出額と輸入額の差)について

 第85ヵ年計画後期:150億ドルを超えるほどの赤字。

95ヵ年計画期の後半:わずかながら黒字に転じている。

このような外資系企業の貿易収支の改善も、先に朱鎔基首相の述べた中国の外貨準備高の増大に貢献しているものと考えられる。

3.輸出入商品貿易構造の変化と外資系企業の果たした役割

    中国の輸出入産品における繊維製品及びその原料と機械・電気機器等の全体に占めるシェアについて

85ヵ年計画期:繊維製品及びその原材料が中国の輸出総額の4分の1を占める。

95ヵ年計画期:機械類・電気機器等のシェアが繊維製品及びその原材料のシェアを上回る。→より水平的な貿易構造になってきていると思われる。

 

    外資系企業の輸出商品高度化に対する貢献について

(1)   技術面での貢献

廖慶薪・廖力平の外国直接投資と技術導入との関係の指摘:「外資利用による先進技術の導入は、すでに中国の技術導入の一つの重要な措置となっている。特に外国直接投資の項目では、外資企業の経済利益と緊密に結合することによって、一連の購入の難しい先進技術は、合弁企業を開設することで得ることができる」

「現在外資系企業の技術導入は、全国の技術導入の4割以上を占めている」との報告もある。

(2)外資系企業は、輸出商品高度化の背景となっている、工業生産構造の高度化に大きく貢献している。工業業種別の中国全体の企業総数及び工業生産額と外資系企業の企業総数及び工業総生産額とそのシェアをみると、「電子及び通信設備製造業」「交通運輸設備製造業」「電気機械及び機材製造業」の3業種における外資系企業の企業数、工業総生産額に占めるシェアの大きさが注目される。

特に、「電子及び通信設備製造業」において、外資系企業が全企業の半分近く、生産額では、全体の7割以上を占めている。

以上のことと、第2節で述べた外資系企業の貿易総額に対する貢献度から考察するに、外資系企業の生産活動が、技術導入を通じて、まず工業生産構造を高度化させ、それが中国の貿易構造の高度化につながってきていると考えられるのである。

 

4.外資系企業に適用される法規の改正

中国の貿易拡大と輸出商品高度化において外資系企業の貢献度は非常に大きいが、第95ヵ年計画期の最後の年にあたる2000年には、外資系企業の法制度面において、いくつかの改正が見られた。ここで、どのような改正が行なわれたか概観する」。

(1) 外資企業法第15(改正前)

「外資系企業は認可された経営範囲内で、必要な原材料、燃料などの物資は、中国で購入することもできるし、国際市場で購入することもできる。同等の条件下ならば中国で優先的に購入しなければならない」→ローカルコンテンツ要求と誤解を与える条項。

外資企業法第15条(200010月 改正後)

「外資企業は認可された経営範囲内において必要な原材料、燃料などの物資を公平・合理の原則に基づいて、国内市場あるいは国際市場で購入することができる」

(2) 外資企業法第3(改正前)

「設立される外資企業は、中国国民経済の発展に役立ち、かつ先進的な技術及び設備を採用し、または製品の全部もしくは大部分を輸出するものでなければならない」→「輸出義務」と捉えられかねない部分。

外資企業法第3(200010月改正後)

「設立される外資企業は、中国国民経済の発展に有利なものでなければならない。国家は、製品を輸出するかもしくは先進的技術を有する外資企業の設立を奨励する」

朱鎔基首相は「国民経済と社会発展第105ヵ年計画綱要についての報告」における4つの目標の

一つとして、「改革を深化させ、国際的に通用している規則と我が国の国情に符合した対外経済貿易体制を完備する。関連する法律・法規の修正と完備への動きを早める」ということを挙げている。

中国はすでに200112月にWTOへの加盟を果たしているが、特に「改革を深化させ、国際的に通用している規則と我が国の国情に符合した対外経済貿易体制を完備する」という部分は、前節で見た2000年における「外資企業法」をはじめとする外資系企業関連法規の改正もこの目標のさきがけとして行なわれた側面が強い。

しかしながら、現在中国貿易のほぼ半分に貢献している外資系企業に対して適用されている法律のこのような改正は、外資系企業の生産・経営活動の更なる活性化のみならず、中国の貿易発展をも促進していく上で、必要不可欠と考えられる。

 

5.むすびにかえて

本稿では、第95ヵ年計画期における対外貿易の変化とそれに対する外資系企業の貢献度の大きさについて示してきた。中国政府は、対外開放における貿易と外資導入の重要性を強く認識しており、それは朱鎔基首相の前述した報告における以下の部分から伺える。

(1)輸出入貿易をさらに発展させる。・・・輸出商品構造を高度化し、ハイテク技術製品の比重を高め、主要伝統商品の技術内容と付加価値を高め、サービス貿易の規模を拡大する。

(2)外資利用の水準向上に努めなければならない。・・・外国資本、特に多国籍企業のハイテク技術産業やインフラ等の領域への投資及び我が国での研究開発機関の建設や国有企業の再編成・改造に参与することを奨励する。

(3)“対外経済進出”戦略を実施しなければならない。

(1)(2)について

技術水準の向上、特にハイテク製品への志向という点で一致していることが注目される。貿易構造の高度化、特にハイテク製品の比重の拡大のためには、外資系企業が極めて大きな役割を担っており、貿易と外資は切り離せない関係にあることが見てとれる。

ここまでの朱鎔基首相の3つの目標から伺えることは、今後の中国の経済成長のみならず、技術水

準の向上、輸出商品構造の高度化まで、さまざまな側面から貿易及び外国資本の貢献に期待しているということである。また、本稿では貿易の発展における外国資本の貢献度を示していくことで、貿易と外国資本の密接な関係を指摘した。貿易が今後中国経済の発展の上で、役割を果たすためには、同時に外国資本の導入を質量共により一層向上させていくことが不可欠なものとなってくるだろう。

(3)について

対外貿易協力省の王暉の報告によると、現在中国企業の対外投資額は、すでに2年連続して6億ドルを超え、これまでの投資相手国も160カ国・地域を越えており、一定の進展を得ている。しかしながら、年間400億ドルを超える中国の外国直接投資流入額と比較するといまだ低い水準に留まっており、また盧進勇は、この“対外経済進出”戦略の課題の一つとして、「海外投資法」・「海外投資保険法」など法律面における不備も指摘していることから、この戦略は、第105ヵ年計画期のみならず、それ以降も引き続き推進していくものであると考えられる。