国際経済学会報告要旨

 

「インドネシア製造業の経営効率性」

DEAによる規模別経営効率性の計測とその要因分析−

 

      神戸大学  松永 宣明      札幌学院大学  播磨谷 浩三*

 

 アジア経済危機を契機として、ASEAN各国の経済発展と金融問題との関連について、マクロ的な観点から数多くの学究的関心が集められるようになっている。しかしながら、データ等の制約も大きく影響してか、個々の産業の生産性や効率性に関するミクロ的な観点からの分析はまだ途上にあるのが現状である。

 本論では、インドネシア製造業のセンサス・データ(Republic of Indonesia Central Bureau of Statistics, Annual Manufacturing Survey 各年版)を対象に、部門別、規模別の経営効率性の計測を行うことにより、インドネシア製造業の特色を明らかにすることを目的とする。経営効率性の計測に際し、本論では、投入物と産出物との関連について推定関数形の特定化を必要としない、non-parametric approachの代表的な手法であるDEA採用する。これは、parametric approachでは、推定関数形を導出する理論的根拠として、完全競争市場の存在を前提とした利潤最大化(費用最小化)モデルが適用される場合が多いが、インドネシアの国内市場を考えた場合、最終生産財市場や投入要素市場において、これらの完全競争の仮定は現実と非整合的であるように思われるためである。

 データの細分化については、3ケタ産業コードをベースに、部門を10に分類する。さらに、各部門を従業員規模に応じて4つに分類する。投入物としては、@生産従事者人件費、Aその他人件費、B使用燃料費、C原材料費の4つを使用する。産出物については、産出総額、付加価値額それぞれを使用し、計測指標である効率性を比較する。推定モデルについては、DEAの基本的なモデルである、CCRモデルとBCCモデルとを採用する。CCRモデル、BCCモデルそれぞれから得られる計測指標は、総合的な生産効率性と技術的効率性を示している。また、CCRモデルの値をBCCモデルの値で割ることにより求められる計測指標は、規模の効率性を示している。

本論では、これらの各種計測指標を部門別、規模別に比較し、インドネシア製造業の特色についての検証を試みる。本論で明らかにされたことを要約すると、以下のようになる。

 まず、生産物を産出総額と定義した場合では、総合的な生産効率性を表すCCRモデルにおいて、一次金属製品や化学関係の一部の例外を除き、小規模企業ほど効率性が低いことが示された。ただし、記述統計から得られる労働生産性のように、その格差は必ずしも従業員規模に比例する関係にはない。また、技術的効率性を表すBCCモデルでは、規模別の格差は縮小するものの、食料品部門の効率性が全般的に低いことも示された。これら2つのモデルから得られる計測指標の比として表される規模効率性については、一部の例外を除き、0.7以上の高い効率性を示しており、インドネシア製造業の生産業務における総合的な効率性格差は技術的な違いにより生じていると理解できる。

 一方、生産物を付加価値額と定義した場合では、産出総額と定義した場合に比べ、いずれのモデルにおいても効率性は全般的に低下する。規模別の比較では、各年度により違いが大きいものの、特にBCCモデルにおいて、小規模企業と大規模企業との効率性の格差が拡大する。規模効率性についても同様であり、煙草・飲料や繊維関係の50人未満における効率性の低さが顕著に示された。

しかし、一次金属製品部門の効率性が高く、食料品部門の効率性が低いという傾向は、いずれの生産物の定義においても共通している。また、1997年から1998年にかけては、ほとんどの計測指標において効率性が低下しており、アジア経済危機の影響が推察される。計測結果の一部(1998年データの特定部門のみ)については、以下の表に示されている。

 

 

 

 

 

本論では、これらの計測結果の中から、一部の部門における小規模企業の効率性の低さに注目し、その要因を資本構成や経営形態の違いから検証を行った。結果、検証対象とした多くの部門において、官営企業や外国資本が含まれる企業ほど効率性が高いことが示され、資本力の違いが小規模企業の効率性格差に大きく影響していることが理解できた。

つまり、インドネシア製造業は部門別、規模別で大きく相違しており、その特色を画一的に判断することは容易ではない。本論では、紙数等の都合から、一部の部門の小規模企業だけを対象に効率性格差の要因分析を試みたが、同様の分析対象を広げることにより、今後より詳細な部門別、規模別の検証が求められよう。

 

 



* 報告者(e-mail  harimaya@sgu.ac.jp