日本国際経済学会第61回全国大会 東北大学に於て        2002106日                      

(使用する表や地図は当日会場で配布する)

ミャンマーにおける第二次都市化期の労働移動の実態

ナンミャケーカイン

立命館大学大学院国際関係研究科研究生

E-Mail:ba787920@ir.ritsumei.ac.jp

 

T.はじめに――本報告の目的――

 ミャンマーは1988年に社会主義の計画経済から市場経済へ移行した。本報告は、1988年以降の移行経済過程のもとで生じたヤンゴンへの労働移動の実態について、2000年から2002年まで断続的に行われてきた現地調査の結果を中心とした理論的検討を目的とする。

 

U.本報告の課題

第一に、ヤンゴンの縫製工場と6つのインフォーマル・セクター職業に従事する地方出身労働者の就業状態・居住環境・移動形態を明らかにする。第二に、労働力の移動要因を都市部のプル要因のみならず、農村部のプッシュ要因をも分析し、両要因の分析結果を示す。第三に、ミャンマーにおける第二次都市化期の労働移動の実態から示唆された点をトダロの都市農村間労働移動モデルの特徴点と対照させながら理論的検討を行う。

 

V.ミャンマーの第二次都市化期とは何か?

l        ヤンゴン市人口は13年間に倍増(1983年約250万人⇒1996年約500万人)

この間の人口増加の要素は何か?自然増加(or)社会増加?これを推計分析した結果、

自然増加33.04%、市域の拡張による増加24.88%、移動による社会増加42.08

l        195365年ヤンゴンへの純移動人口の割合は42.5[Khin Wit Yee; 1988]

195565年ヤンゴンへの純移動人口と拡張地域人口の割合は67.2[Naing Oo; 1989]

ヤンゴンへの労働移動の第一次都市化期

198396年のヤンゴンへの純移動人口の割合は42.08Khaingの推計分析)

ヤンゴンへの労働移動の第二次都市化期

l        政府発表の統計:純移動率は13.8%[入国管理・人口省; 1995]、10.2%[労働省; 1993]。移動者の主な出身地は、@Ayeyarwaddy管区、ABago管区、BMon州、CMandalay管区、DMagway管区。

 

W.首都ヤンゴンへの労働移動の実態

(1)ヤンゴンの縫製工場における地方出身労働者の実態

l        工場調査は、O社、Y社、MH社、HH社、C社、W社で20007月〜8月に実施(地図1参照)。調査工場の概観については、表1を参照。工場6件の雇用労働者数7,245人のうち約85%に当たる6,141人に調査が及んでいる。

l        割合:6工場の平均が34.78%、O社が44.87%、Y社が43.46%(表2参照)。

l        出身地:@Ayeyarwaddy管区が33%、AMagway管区が21%、BBago管区が17%、CYangon管区が12%、DMandalay管区が9%(地図2参照)。

l        特徴:@移動者の9割が女性。A1524歳の若年層75.44%。B中卒58%、高卒25%。

l        移動パターン:@95年以降に移動している。約4割は99年移動者。A移動直後の居住場は、約6割が親戚の家。B現在、5割は寮生活、3割は間借り生活。C単独の移動者は75%。D移動の理由は、「仕送りのため」が約5割、「地方に仕事がないため」が2割弱。E移動するのに頼ってきた人は、親戚が55.4%、友達が28.6%。F仕事の情報を教えてもらった人は、親戚・友達が71.4%、誰にも教えてもらわず工場に直接訪ねてきた人は26.8%。Gヤンゴンに住み続けるつもりの人が94.6%。

 

(2)ヤンゴンのインフォーマル・セクターにおける地方出身労働者の実態

l        残差法によるミャンマーのIF.S労働者数の推定:1990年就業労働人口の47.32%(表3参照)。

l        IF.S調査はTarmwayKyaukMyaung)とMamaryutHleDan)に20014月実施(地図1参照)。調査対象者は、@タクシー運転手、A飲食物販売、Bサイカー運転手、C生鮮品(魚・肉)販売者、D建設現場労働者、E廃品回収者。無作為に選択した合計183人に対する聞き取り調査を行なった。

l        割合:38.8%が地方出身労働者(表4参照)。

l        出身地:@Ayeyarwaddy管区が23.9%、AMagway管区が21.1%、BMandalay管区が18.3%、CBago管区が15.5%、DYangon管区が7%(地図2参照)。

l        特徴:@IF.S職種での地方出身労働者の81.7%が男性。A移動者の47.9%が20代、残りが30代と40代。B小卒47.9%、中卒26.8%。

l        移動パターン:@71.8%が95年以降の移動者。A移動直後の居住場は、約5割が親戚の家。約2割が間借り。約2割が住込み。B現在、5割強は間借り生活、2割弱は親戚の家。C単独の移動者は71.8%。D移動の理由は、「地方より高い収入を得るため」が28.2%、「地方に仕事がないため」が26.8%。E移動するのに頼ってきた人は、親戚が35.2%、親や姉妹兄弟が28.2%。F現職に就く前の職種は、IF.S64.8%、なし14.1%、親の畑手伝い11.3%。G移動者の地方での社会階層(父親の仕事)は、自作農28.2%、IF.S15.5%、無職16.9%。Gヤンゴンに住み続けるつもりの人が71.8%。

 

(3)地方出身労働者の移動形態

l        次世代の単身者が主流。

l        地方都市から首都への移動が主体。

l        AyeyarwaddyMagwayMandalayBagoYangonの平野部が主な労働力流出地。

l        移動・居住先・就業先のすべてに関して「縁故関係」が重要な役割を果たす。

l        一人が先にヤンゴンへ移動し、就職してから姉妹・兄弟、親戚、友達、同郷人を次々と呼び寄せるという「数珠つなぎ型労働力移動」形態を成している。

 

X.ミャンマーの国内労働移動の要因

l        第二次都市化期のヤンゴンへの労働移動は、従来の労働移動分析のように都市のプル要因か、農村のプッシュ要因かという断片的な見方では不十分であり、複合的な要素が重なり合って生じたもの。

(1)ヤンゴンの雇用機会の拡大によるプル要因 

l        民間企業の新規設立の増加(表5参照)。

l        インフォーマル・セクターの拡大 ⇒ ミャンマーの公務員の安月給(表6参照)。

l        中間層の拡大 ⇒ 新職の誕生と海外への出稼ぎ労働者の増大

(2)農業政策の変遷にみる農村のプッシュ要因

l        ミャンマー式社会主義時代の農地国有化

l        現行軍政の農業政策:農民の総体的貧困化

l        農村部での非農業部門における雇用機会の欠如

l        農村での生活様式の変化

(3)プッシュ要因とプル要因の連結構造――国家政策的側面――

l        都市と農村のパイプ的な役割として交通インフラ整備と輸送ネットワークの発展。

l        交通が便利になったことで情報の伝播速度も速くなっている。

 

Y.第二次都市化期の労働移動の実態からトダロ・モデルを理論的再検討

l        都市への移住を決定するのは期待賃金格差である ⇒ 「便宜性ファクター」と「地縁・血縁的ファクター」

l        都市と農村の期待賃金格差が大きい場合には、都市の雇用機会の伸び率を上回る移動率が起こり得る ⇒ 「工業化ファクター」

l        都市部で失業率や半失業率が高くても、都市農村間の期待賃金格差が大きければ労働移動が継続して起きる ⇒ 「首座都市ファクター」

l        移動者は都市フォーマル・セクターより比較的に参入しやすいインフォーマル・セクターに従事することになる。したがって、移動者の増大によってインフォーマル・セクターが拡大する。また、都市インフォーマル・セクターはフォーマル・セクターに参入できるまでのあいだにおいてのみ就業する機関である ⇒ 「制度的・官僚制ファクター」。フォーマル・セクターへの上昇性がない。インフォーマル・セクター内でさえも上昇性がみられず、同じインフォーマル職に滞留する性質が強い。