危険回避行動と国際資本移動

横川和男

過去20年ほどの間、まず先進国間で、続いて多くの発展途上国において、国際資本移動の自由化が進められ、各国金融市場において、国内投資家の対外投資や外国投資家の参加の度合いが増してきた。このことは以前には得られなかった領域に経済活動の範囲を広げ、益をもたらしてきた反面、為替レートをはじめとして、国民経済の動向が内外投資家の国際投資行動により大きな影響をこうむる事態が発生し、特に発展途上国で深刻な問題を引き起こした。これを踏まえ、資本移動の自由化の是非に関しても見直しの議論が行われている。

一方、いくつかの実証研究の結果によれば、資本の国際移動の程度は依然として予想されるよりも小さなものにとどまっている。第一に保有資産全体に占める対外資産の割合は低く、いわゆる自国資産バイアスが存在する。よって投資先の対外分散により得られる収益増加、およびリスク低減の可能性が投資家により十分に活用されているとはいえない。また、貯蓄と投資の相関は、最初にその指摘がなされた1980年以前の水準に比べて低下して来ているとはいえ、近年に至っても正の有意な相関が観察される。さらに資本自由化が進んだ先進国間においても名目金利の格差が存在し、そのすべてを為替レートの変化の予想に帰着させるのには疑問が残る。

資本移動の程度が低いことに対して、いくつかの原因が挙げられている。為替リスクの存在やそれに対する投資家の主観的評価、危険回避の度合い、非貿易財の存在、市場性のない資産の存在、情報収集の費用、投資資金や収益の回収に伴いうる法的手続きに関する費用やリスクなどである。

本報告では、非貿易財を含んだ資産市場の二国モデルを用い、均衡において成り立つ収益率の関係や、その収益率構造の下での資産保有パターンを利用して、以上の原因のいくつかについて考察を加える。外生的ショックに対応して生ずる変化が原因として挙げられている各要因ごとにどのように異なり、あるいは類似するのかを検討することによって各要因が妥当する状況を明らかにする。この考察に当たり、二国の資産市場の相対的規模に注目し、発展途上国など小さな規模の資産市場を持つ国が資本移動を自由化したときに特有の問題を指摘する。